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食事の喜びを続けるために

S さん (12歳)

 

 乳児の時、母乳を飲む事ができず経鼻より経腸栄養剤を注入していました。経口摂取(歯科医師、OTの先生の了承のもと)でも並行して食事をとっていましたが、経口摂取のみでは体重、体調の維持が難しい状態でした。その間も誤嚥性肺炎を繰り返し、2、3ヶ月に1度は入院という生活でした。経口摂取を諦め、経鼻よりの注入のみとなると1日5回の注入+水分補給。寝ている間も注入し続けている状態。液体の注入物がなかなか胃に収まらず、嘔吐したり、誤嚥性肺炎も繰り返していました。また経腸栄養剤では微量元素が摂取できずセレンなどの栄養剤を別に摂ることとなりました。また注入中の姿勢にも気を配り注入中は目を離せない状態。

 それがほぼ1日中という生活を何年か過ごし、主治医の勧めもあり6歳の時に胃ろうを造設しました。主治医のDr.もミキサー食を推進している方だったので、ミキサー食を摂取するようになりました。誤嚥を気にせずみんなと同じ食事を与えられる事を嬉しく思いました。ミキサー食を注入できるようになってからは嘔吐は減り、胃ろう造設から今現在に至るまで誤嚥性肺炎での入院はなく、体調もみるみる良くなりました。身体も丈夫になり、今ではほぼ毎日学校に通えています。

 経腸栄養剤の注入を続け逆流を起こしている時は楽しいはずの食事が苦痛であったはずです。経腸栄養剤を時間通りに「いただきます」と滴下して、時間通りに終わり「ごちそうさまでした」と、毎回の食事がこれで良いのか?健康面、精神面からしても最善の方法ではないはずです。みんなと楽しく食事ができるミキサー食はこれまで苦痛でさえあった食事を喜びにかえられる手段なのです。ミキサー食の食事の時間はただ滴下する時間と違って会話も増え、嗅覚で味わう事もできます。生きるためだけの食事から家族で味わう本当の食事になっています。在宅でのQOLの向上とはそういう小さな些細なことのひとつから始まるのです。

 そんな日々を送っている中、既存規格接続コネクタの出荷停止と、新規格接続コネクタの話がありました。ただでさえ、ミキサー食の注入は腕や手首に負担がかかり、腱鞘炎になる方も少なからずいます。新規格接続コネクタはネジ式で介護者の身体に今まで以上の負担がかかります。もし私がシリンジを押せなくなったら…この子は楽しく、健康な食事(ミキサー食)を食べる事ができなくなります。その時にこの子は健康を維持していく事ができるのか?                                                                                                 また、今回の変更に関して情報が少なすぎて一部の方だけが知り得る情報となっており、私達当事者が置き去りになっている感が否めません。当事者を置き去りにして物事だけが粛々と進んでいく様は納得がいかないというのが本音です。新規格接続コネクタが出荷されるにしても既存規格接続コネクタを残していただき、私達にどちらが使いやすいのか選ぶ権利を与えてほしい。この事を切に願います。