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好物を食べられる幸せ

Fさん(21歳)

 

 現在21歳の娘は、中学3年生の10月に通学中の交通事故で軽自動車の下敷きになり、推定で8分の心肺停止状態になり、救急救命士の心肺蘇生で息を吹き返し、その後救急ヘリで病院に運ばれました。そこで、低酸素脳症と診断されました。大脳基底核と前頭葉に大きなダメージを受けて、四肢全麻痺になりました。

 2か月間ずっと急性期病院のICUに入院後、療養型病院に転院しました。そこで、機能回復のための訓練を受けましたが、口から食べることはできませんでした。そこで、胃ろう造設を勧められて、事故後7か月の時に胃ろうを造設しました。その頃の食事は三食経腸栄養剤でした。

 その頃はバルーン付きの気管切開部カニューレをしていて、吸引の刺激や体調の優れないときなど、嘔吐し、誤嚥性肺炎をに起頻?に起こしていました。その度に高熱をだし、抗生物質の点滴や薬を服用していました。苦しむ娘を見るのはとても辛いことでしたし、このまま亡くなってしまうのではないかと、不安な毎日でした。

 意思伝達のための訓練で視線入力の練習をしている時、「一番何が食べたい?」と聞きました。娘は必死に「ひ」と「さ」の文字を選びました。はじめは分かりませんでしたが、娘の好物を考えたとき、「ピザ」であると思いつきました。「ピザが食べたいの?」と聞くと頷きました。口から食べさせることはできないし、望みを叶えてあげられない事がとても辛かったです。

 事故から一年半後に普通食のミキサー食を知り、早速、娘にも試してみました。すると、娘は全く嘔吐しなくなりました。そればかりか、体の不快感からくる筋緊張も少なくなり、顔の表情も優しくなりました。便の状態も水様からほぼ通常の便に変わり、介護する私たちも楽になりました。何より娘が食べたいと思うものを食べさせてあげられることが出来たことが私たち家族にとっての喜びでした。

 今は家族みんなで同じものを食べています。好きだったピザもミキサー食にしてあげることが出来ます。体調が良くなり嘔吐することもほとんどなくなったので気管切開部のバルーン付きカニューレも外れ、薬の量も減らすことが出来ました。

 娘の生活の質を向上させ、私たちに幸せを与えてくれたミキサー食ですが、新規格接続コネクタへの変更で介護する私たちの生活に影響が出ています。ミキサー食を吸い取るために何度も採液ノズルの付け外しが必要です。また、カロリーを高く保つため、我が家のミキサー食は水を少なくして作っているため、かなり固めです。現行のシリンジと比べ小口の採液ノズルでは吸いづらく、投与に倍の時間を費やします。シリンジは現行品を使って、変換コネクタAを使っての注入も考えていますが、シリンジを押す圧力が大きくなり、手首や肘への負担が増えていて、このまま続ければ腱鞘炎を起こすこととなるでしょう。

 でも、娘の健康維持や口から摂取できなくとも食事の風味を感じることが出来ていることを思えば、自分にとってどんなに負担でもミキサー食は続けていきます。しかし、今後負担がふえることは明らかです。是非とも既存規格接続コネクタも残していただき、娘との笑顔のふれあいの時間を作っていただけますようお願いいたします。