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34年にわたる食事との戦い

Mさん (34歳)  

 

 私の息子は1986年夏に産まれ、生後3日目にてんかん発作があり、脳性麻痺となりました。現在は寝返りもできない全介助状態で、胃ろうから食事を摂っています。私の34年の育児と介護は息子の食事との戦いと言っていいものでした。

 乳児期は母乳もミルクもよく飲んで、順調に体重を増やしていましたが、離乳期からが大変でした。口腔内の過敏や脳性麻痺による嚥下障害のため、ミキサー食を食べさせるのに30分以上時間をかけても、むせて吐き出し体重が増えません。15歳の時誤嚥性肺炎を繰り返し経鼻経管栄養にしました。少量でもグルメだった息子が、数か月に及ぶ咳と吸引による体力の消耗で疲れ果て、食事に全く興味をなくしていました。経口摂取を止めても痰の吸引は続き、胃の中に未消化のミルクが残る胃残が多く、体重が増えません。筋緊張による胃食道逆流もあって、19歳で胃ろう造設と逆流防止の手術をしました。

 胃ろうにしてようやく呼吸状態が落ち着き、体重が念願の20㎏を超えたのは20歳でした。ただ胃ろうにしても胃残の問題は残っていました。経腸栄養剤を1時間かけてゆっくり滴下し、さらに1時間座位を保って腸に送るようにしても消化しないのです。夜の注入から8時間たった朝に胃残があり胃が空になりません。便も緩いか固いかで浣腸と下痢の繰り返しでした。

 経腸栄養剤を半固形化する方法を試し、微量元素と食物繊維を補う補助食品があると聞いては購入し、野菜ジュースやスムージーも試しました。そんな時、ある障がい者施設で胃ろうミキサー食の作り方を教わり、簡単で注入しやすいミキサー食(1g1kcal)に夕食だけを切り替えました。1食変えただけなのに胃残が減り、朝自力排便するようになり、吸引も減り熱も出なくなり、褥瘡で赤くなっていた耳もピンク色になりました。

 理想的ミキサー食ですが、短期入所先の病院では手間がかかるので、頼みにくい状態でした。まずは半固形経腸栄養剤をシリンジで注入するところから頼みました。人手のある昼食で慣れてもらい、次第に朝も夜も半固形にし、その後昼食に市販のミキサー食を注入してもらいました。さらにもう一押し、昼食のミキサー食を病院食で出してもらえるまでになりました。利用を重ね少しずつ頼み、慣れてもらうことで家庭の食事に近づけていきました。毎日利用するデイサービス先では、私が自宅のミキサーを持ち込んで給食を加工し、ミキサー食注入を試してもらいました。厨房の栄養士さんも胃ろうミキサー食の勉強会に行ってくださって、今では仲間6人が胃ろうミキサー食を注入しています。デイサービス先の給食があまりにおいしいので、体重が1年で1㎏も増えカロリー制限を考えるまでになっています。20歳で20㎏やっとだったことが嘘のようです。 

 

 食べることは生きること、15歳でなくした食事への興味もすっかり取り戻して、今ではデイサービスの献立を白版に写す係を率先してやっています。34年の間に食事は戦いではなくなっていました。これからも健康で楽しい食事で長く在宅介護を続けたいと思います。